はやて1

一番好きな季節は?と尋ねられたら、「夏の夕暮れが一番好き」と答えてしまうくらい、ちょっと余分で、でも自分にとっては大事なことを付け加えて話す子だった。ああすごく楽しそうに話してしまったなって、誰も気にしていないことをずっと気にしながら家まで帰る。やっぱり自分の方が強く好意があると思われるころはなんだか悔しいし恥ずかしいから、次からは聞かれたことだけ淡々と、でも笑顔で答えようと思ってる。

ナナは大学の講義で後ろから二列目真ん中より少し廊下側のいつもの席に座って茜を待ちながら本を読んでいた。憧れの大学生活とは程遠く、友達も多くはできずパッとしないサークルに入って、パッとしないバイトを辞めるかどうか迷いながら、ぼおっとしながら授業を受ける。刺激が多い毎日で夜ぐったり帰ってきて眠ることが理想だがなかなか難しい、そもそも飲み会なんて帰りたくなるものなんだから。

今日、講義後、颯とデートをする約束だった。自分から誘ったのに当日はやっぱり行きたくなくなってしまう。無かったことにならないのはわかっているのに、そして時間になったら必ず足早に向かうのに、鼓動が速くなって会いたくなくなる。

 

15:00過ぎ、井の頭公園に少し遅れてやってきた颯は、なぜか驚いた顔をして「ナナちゃん?」と呼んだ。2人で会うとは思っていなかったらしく、これからするであろう行動に少しうろたえているように見えた。「行きたい喫茶店あって。行こう。」ナナは駅側を指さし、なぜ吉祥寺駅でなく井の頭公園待ち合わせ場所に指定したのか言わないまま足早に歩きだした。